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投稿日:2025年05月16日
メトトレキサート治療と腎機能評価の落とし穴
〜関節リウマチ診療の中で“過大評価”を見抜く視点〜
関節リウマチ(RA)の治療は、この20年で大きな進化を遂げてきました。その中心にあるのがメトトレキサート(MTX)です。MTXは「リウマチ診療の基本薬」とも言われ、さまざまな治療ガイドラインで第一選択薬として推奨されています。私自身も、これまで数多くの患者さんにMTXを使用してきましたが、そのたびに感じるのが「腎機能評価の重要性」です。
MTXは主に腎臓から排泄される薬剤です。そのため、腎機能が低下している患者さんにMTXを使用すると、体内に薬が蓄積し、副作用のリスクが高まる可能性があります。実際に、eGFR(推算糸球体濾過量)が30mL/min/1.73㎡未満の患者さんでは、MTXの使用は禁忌とされています。したがって、MTXを安全に使用するためには、正確な腎機能評価が欠かせません。
ところが、ここに一つの“盲点”が潜んでいます。それは、腎機能が「正常に見える」患者さんの中にも、実際には腎機能が低下している方がいるという事実です。これがいわゆる「腎機能の過大評価」です。
この点に着目し、私たちの研究グループは以前、「RA患者さんにおけるクレアチニンとシスタチンCを用いたeGFRの乖離に関与する因子」をテーマに研究を行い、その成果を2021年にScientific Reports誌に発表しました(Nakashima A, et al. Sci Rep. 2021;11:9884. https://doi.org/10.1038/s41598-021-89303-3)。
【クレアチニンだけでは見えない“腎機能低下”】
この研究では、238名のRA患者さんを対象に、血清クレアチニン(Cr)から算出されるeGFR(eGFR-Cr)と、筋肉量の影響を受けにくいシスタチンC(CysC)から算出されるeGFR(eGFR-CysC)を比較しました。その結果、約19%の患者さんで、eGFR-CrがeGFR-CysCより20%以上高く、腎機能が過大評価されていることが判明しました。
また、eGFR-Crが60以上(正常と判断される範囲)に見える患者さんのうち、約14%がeGFR-CysCでは60未満であり、「隠れた腎機能低下」が見逃されていた可能性があるのです。
【過大評価されやすい患者さんの特徴】
過大評価群(eGFR-Cr/eGFR-CysC ≥1.2)となった患者さんの共通点を解析した結果、以下の因子が有意に関連していました:
– BMIが低い(やせ型)
– 貧血がある
– 筋肉酵素(CK)が低い
– 糖尿病の合併
– 関節破壊が高度(Steinbrockerステージ4)
– NSAIDsの使用が少ない
これらの特徴はすべて、筋肉量の減少=サルコペニアと深く関わっています。RA患者さんでは、慢性炎症や活動量の低下によりサルコペニアが起こりやすいことが報告されています(Lin JZ, et al. J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2019;10(2):355–367.)。
クレアチニンは筋肉から作られるため、サルコペニアのある方ではクレアチニン値が低くなりがちです。その結果、eGFR-Crは「高く」計算されてしまい、実際の腎機能より良く見えてしまうのです。
【腎機能の「本当の姿」を見るには】
このような背景を踏まえると、MTXを使用する際に、筋肉量の少ない患者さんには、eGFR-Crだけでなく、eGFR-CysCの併用評価を行うべきだと考えています。特に以下のような方には注意が必要です:
– 高齢でやせ型のRA患者さん
– CKが低値の方
– 糖尿病や貧血がある方
– 関節破壊が進行している方
MTXは有効性の高い薬ですが、使い方を誤ると重篤な副作用を起こす可能性があります。だからこそ、“見かけのeGFR”に惑わされず、隠れた腎機能低下を見逃さない姿勢が、これからのRA診療においてますます重要になるでしょう。
【参考文献】
1. Nakashima A, et al. Factors contributing to discrepant estimated glomerular filtration values measured by creatinine and cystatin C in patients with rheumatoid arthritis. Scientific Reports. 2021;11:9884. https://doi.org/10.1038/s41598-021-89303-3
2. Lin JZ, et al. Myopenia is associated with joint damage in rheumatoid arthritis: a cross-sectional study. J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2019;10(2):355–367.

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