TOPページ Doctorニュース 高齢透析患者と抗菌薬使用:見逃されがちな中枢神経系への副作用
投稿日:2025年05月31日
高齢透析患者と抗菌薬使用:見逃されがちな中枢神経系への副作用

医療現場では、感染症の治療に抗菌薬は欠かせません。とりわけ高齢者や腎機能の低下した患者さんにおいては、抗菌薬の選択や投与量の調整が治療効果と安全性の両立に大きく関わってきます。
なかでも注意すべき副作用のひとつが、抗菌薬関連脳症(AAE: Antibiotic Associated Encephalopathy)です。これは比較的稀ではありますが、重篤な意識障害や不随意運動、けいれん、幻覚といった症状を引き起こすことがあり、特に腎機能が低下している患者においては注意が必要です。
Bhattacharyyaら【1】は、AAEを以下の3つに分類しています(図1):

Type I:セファロスポリン・ペニシリン系投与後に痙攣やミオクローヌスを主症状とする脳症
Type II:キノロン・マクロライド・スルホンアミド系投与後に幻覚・妄想などの精神症状を呈する脳症
Type III:メトロニダゾール投与後、数週間で発症し、小脳症状やMRI異常を伴う脳症
こうした脳症は、薬剤が中枢神経系に与える影響(GABA受容体阻害、ドパミン系・NMDA受容体の変調など)によって引き起こされると考えられており、その背景には血中濃度の上昇が深く関係しています。
抗菌薬関連脳症(AAE)の発症には血中薬剤濃度の上昇が深く関与しており、その臨床的な閾値についてもいくつかの報告があります。村瀬ら【2】は、透析患者においてセフトリアキソンによるAAEを発症した症例を報告し、セフトリアキソン(Ceftriaxone: CTRX)の有効血中濃度は通常0.7〜8.0 μg/mLとされている一方で、発症時の抗菌薬血中濃度が60〜700 μg/mLと著しく高値であったことを示しています(図2)。

この知見は、Bhattacharyyaら【1】によるAAEの病態分類とも一致しており、高齢かつ腎機能が低下した患者においては、抗菌薬の蓄積によって中枢神経系への毒性が発現するリスクがあることを裏付けるものです。
山田ら【3】の日本薬剤副作用報告データベース解析によると、以下の条件でCTRXのAAEの発症リスクが有意に高くなることが示されています。
※オッズ比(Odds Ratio)とは、「ある条件があると、ない場合に比べてどれくらいリスクが高くなるか」を示す指標で、1を超えるとリスク増加を意味します。
これらのリスクをもつ患者に抗菌薬を使用する際には、用量を最小限にとどめること、投与期間を必要最小限とすること、可能であれば薬物モニタリングを行うことが重要です。
抗菌薬による中枢神経症状の可能性は、臨床上見落とされがちです。腎排泄が遅延しやすい高齢者や透析患者においては、蓄積により有効濃度を超えてしまい、副作用が表面化することがあります。意識障害や不随意運動、あるいは精神症状が急激に出現した際には、代謝性疾患や脳血管障害だけでなく、抗菌薬の影響も鑑別に加えるべきです。
安全な薬物療法のためには、単に「効く薬を使う」のではなく、「誰に、どのように、どれだけ使うか」が問われます。患者さんの背景に応じた適正使用こそが、副作用の回避と治療の成功に直結すると感じています。
中島 昭勝
参考文献
1.Bhattacharyya S, Darby RR, Raibagkar P, Gonzalez Castro LN, Berkowitz AL. Antibiotic-associated encephalopathy. Neurology. 2016;86(10):963-971.
2.村瀬翔, 酒井宣明, 長野清一, 権泰史. 末期腎不全患者へのceftriaxone sodium投与により急性意識障害と四肢の粗大な不随意運動を呈した抗菌薬関連脳症の1例. 神経治療学. 2021;38(2):123–126.
3.Yamada T, Mitsuboshi S, Suzuki K, Nishihara M, Neo M. Analysis of the frequency of antibiotic-induced encephalopathy using the Japanese Adverse Drug Event Report database. Int J Clin Pharm. 2022;44(4):1067–1071.
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