TOPページ  Doctorニュース  抗生物質と遺伝子が交差する場所で──ミノマイシンと免疫の意外な関係(詳細版)


投稿日:2025年05月31日


  抗生物質と遺伝子が交差する場所で──ミノマイシンと免疫の意外な関係

 

今回は、以前私が石川県立中央病院に勤務していた際に経験した、印象深い症例について紹介させていただきます。ミノサイクリン(製品名:ミノマイシン)は、ニキビや掌蹠膿疱症などの治療で使用されることのあるテトラサイクリン系抗菌薬ですが、まれに自己免疫性の副作用を呈することが知られています。私たちは掌蹠膿疱症に対して長期服用していた患者さんが、発熱や皮膚の紅斑、MPO-ANCA陽性を呈し、皮膚生検で小血管炎を確認した2症例を経験しました。いずれも薬剤誘発性ANCA関連血管炎(DAV)と診断されました。これらの症例は、当時研修医だった川原先生とともに診療にあたり、後に共著論文として報告させていただきました【1】。

さらに注目すべきは、2症例ともにHLA-DRB1*09:01という遺伝子型を有していた点です。この遺伝子型は、日本人で約15%、韓国人で16%にみられますが、欧州では2%未満と地域差が大きく、顕微鏡的多発血管炎(MPA)との関連も報告されています【2】【3】。このような分布の違いは、進化医学的には過去の感染症、特に結核との関連が考えられており、感染防御に有利なHLA型としてアジア地域で選択されてきた可能性があります【4】【5】。HLA-DRB1*09:01はマイコバクテリア抗原へのT細胞応答を強めるという報告もあり、感染防御の“進化的利点”を有していたとも言えます。

しかしながら、その免疫の強さが現代では逆に働く場面もあり、無害なはずの薬剤に対しても免疫が過剰に反応し、自己免疫性疾患を引き起こすことがあります。まさに“進化が生んだ武器が諸刃の剣となる”ような状況です。今回の症例では、いずれもMPO-ANCA陽性、皮膚症状主体で内臓障害を伴わず、またHLA-DRB1*13:02(保護的アリル)は陰性でした。これらの所見は、ミノサイクリンとHLA-DRB1*09:01の相互作用が疾患の発症に関与している可能性を示唆しています。

HLA型によって薬剤の反応性が異なるという視点は、近年注目されている「個別化医療」にも通じる重要な知見です。今後、HLAを含めた遺伝的背景に基づいた治療選択が進めば、より安全かつ効果的な医療が実現できるのではないかと考えています。微力ながら、こうした臨床経験と知見を活かして、今後も患者さん一人ひとりに合わせた丁寧な診療を心がけてまいります。

 

中島 昭勝

 

参考文献

1.Kawahara H, Nakashima A, Zoshima T, Kawano M. Contribution of HLA-DRB1*09:01 allele to development of minocycline induced ANCA-associated cutaneous vasculitis: report of two cases. Modern Rheumatology Case Reports. 2020. DOI: https://doi.org/10.1080/24725625.2020.1738983

2.Tsuchiya N, Kobayashi S, Kawasaki A, et al. Genetic background of Japanese patients with ANCA-associated vasculitis: association of HLA-DRB1*0901 with microscopic polyangiitis. J Rheumatol. 2003;30(7):1534–1540.

3.Allele Frequency Net Database. DRB1*09:01 allele frequency. http://www.allelefrequencies.net

4.Hirayama K, et al. HLA and tuberculosis in East Asian populations: evolutionary implications. Infect Genet Evol. 2011;11(6):1396–1401.

5.Tamiya G, et al. HLA-DRB1*0901 association with resistance to Mycobacterium tuberculosis. Tissue Antigens. 1999;54(3):232–238.

 







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