TOPページ Doctorニュース 透析患者における体液量の客観的評価: BNP(Brain Natriuretic Peptide:脳型ナトリウム利尿ペプチド)とバイオインピーダンス法の一致性について
投稿日:2025年06月24日
透析患者における体液量の客観的評価: BNP(Brain Natriuretic Peptide:脳型ナトリウム利尿ペプチド)とバイオインピーダンス法の一致性について

—Hemodialysis International 2013; 17:406–412 Tapolyai et al. に基づく論文要約—
2024年6月8日、日本透析療法学会において、Mihály Tapolyai 教授(ハンガリー・センメルワイス大学)による招待講演「Fluid Status Assessments in Renal Failure Patients」が行われました。本講演は、Tapolyai らによる論文「Volume estimation in dialysis patients: The concordance of BNP and bioimpedance values」(Hemodialysis Int. 2013; 17:406–412)を基盤としたものであり、本稿はその論文内容を要約・解説したものです。
1.背景と意義
末期腎不全(ESRD)患者における体液量の状態(volume status)の適正評価は、血圧管理や心機能の維持に直結する極めて重要な課題です。しかし、視診・触診・体重変動・胸部レントゲンといった従来の方法では、体液量過剰または過除水を見逃すリスクがあり、より客観的な評価指標が求められています。BNP(Brain Natriuretic Peptide: 脳型ナトリウム利尿ペプチド)は主に腎臓で代謝されるため、透析患者では健常者より高値を示し、正常値やカットオフ値も異なります。BNPは体液過剰の指標として広く用いられていますが、透析患者ではその解釈に注意が必要です。そこで本研究では、BNPと過剰水分率(OH%:Overhydration Percentage)の関係を明らかにすることを目的でおこなわれました。
2.研究概要
本研究では、安定した外来血液透析患者41名を対象に、透析前の検査で
・BCM(Body Composition Monitor)による過剰水分率(OH%:Overhydration Percentage)
・BNP(Brain Natriuretic Peptide: 脳型ナトリウム利尿ペプチド)濃度の2指標を比較・解析しています。
3.主な結果と意義
・BNP < 500 pg/mL 群:OH%は 8.5 ± 7.0%(水分過剰量 1.6 ± 1.3 L)
・BNP ≧ 500 pg/mL 群:OH%は 21.4 ± 8.0%(水分過剰量 4.4 ± 3.8 L)
BNPとOH%の間には、指数回帰式 y = 216.4e^0.097x(r = 0.61)が成り立ち、OH% = 0% に相当するBNPは 216.4 pg/mL と推定されました。この値は、臨床現場における実感とも一致しており、「BNP 200〜300 pg/mLが乾燥に近い状態」とする実地の感覚に整合します。(図1)

4.ROC解析
・OH% > 15% を基準にしたBNPのAUC:0.885 (図2)
・BNP > 500 pg/mL を基準にしたOH%のAUC:0.918

この結果より、BNPおよびBCMは、volume statusの評価において高い識別能を示すことが明らかになりました。
参考: ROC解析とは?(Receiver Operating Characteristic curve:
受信者動作特性曲線
ROC曲線の概要
ROC解析は、ある診断検査・バイオマーカーが「疾患あり・なし」をどれだけ正確に判別できるかを評価するための統計手法です。 縦軸に感度(True Positive Rate)、横軸に『1 − 特異度』(False Positive Rate:偽陽性率)をとってプロットします。
用語の定義
| 指標 | 意味 |
| 感度(Sensitivity) | 病気の人を正しく陽性と判定する確率 |
| 特異度(Specificity) | 健常な人を正しく陰性と判定する確率 |
| 1−特異度 | 偽陽性率(False Positive Rate) |
| AUC(Area Under the Curve) | ROC曲線下の面積 → 判別能力の指標 |
AUCの解釈(目安)
| AUC値の範囲 | 判別能力の解釈 |
| 0.90〜1.00 | 非常に高い(excellent) |
| 0.80〜0.90 | 高い(good) |
| 0.70〜0.80 | 中等度(fair) |
| 0.60〜0.70 | 低い(poor) |
| 0.50 | 判別できない(chance) |
ROC解析でわかること
・感度と特異度のトレードオフ関係
・最適なカットオフ値の選定(例:Youden index により最大化)
・AUC値による全体の判別性能の評価
まとめ
ROC解析は、
・「ある指標で疾患をどれだけ判別できるか」
・「どの値を境に“異常”とすべきか」 を視覚的・統計的に示す強力なツールです。
5.臨床応用
・BNP<216 pg/mL:体液過剰のリスクは低い
・BNP>500 pg/mL:体液過剰 の可能性高く、除水戦略の見直しが必要
・BCMとBNPの併用により、“視診では見えない溢水”の可視化が可能
6.限界と注意点
BNPは便利なバイオマーカーである一方で、炎症反応、心不全、低アルブミン血症、さらには薬物治療(例:ACE阻害薬、ARB、β遮断薬など)によって影響を受ける可能性があるため、単独で体液量の状態を評価するには限界があります。したがって、BNPの解釈には慎重さが求められ、他の臨床情報との併用が推奨されます。
7.結語
本研究は、BNPとBCMによるOH%との間に有意な指数的相関があることを明らかにし、BNP 216 pg/mLが透析患者のドライに近い状態の定量的指標となり得ることを示しました。BNPとBCMの併用は、体液管理の個別化と合併症予防に寄与する有力な戦略として、今後の透析医療における標準的手法の一つとなることが期待されます。
中島 昭勝
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